胡虎あくびインタビュー|VRChatから広がる音楽の世界。「歌うことをやめない」その理由
VTuberってある程度ネジが外れてる人のほうが面白いんですよ
――3周年を迎えてみて、率直な感想はどうですか?
長いようで短かったなって思います。本当にVTuberの世界って目まぐるしくて、気がついたらここまで来ていた、という感覚ですね。
――駆け抜けてきた感じですか
駆け抜けてますね。私、めちゃくちゃ飽き性なんですよ。趣味も全然続かないタイプなんです。いろんな趣味をぐるぐる回るタイプなんですけど、そんな私がよく飽きずに3年も続けてるなって思います。
――3年って結構長いですよね
そうですね。エンタメで発信している人なら分かると思うんですけど、演者側では「うわ、これめちゃくちゃ大変だな」と思うことが本当に多かったです。
――個人勢というのもありますよね
本当にゴリゴリのワンオペなので、毎日が目まぐるしいです。「目まぐるしい」という言葉がぴったりですね。
――ちなみに、VTuberの活動で一番大変なことって何ですか?
個人でやっていると、事務的なことと、毎日外に向けて発信すること、その両方を全部やらなきゃいけないんです。だから、テンションの切り替えとスケジュール管理が本当に大変ですね。
――テンションの切り替えですか
包み隠さず言うんですけど、VTuberってある程度ネジが外れてる人のほうが面白いんですよ(笑)。でも、そのままだと打ち合わせやスケジュール管理が全然できなくなるんです。売る側の方なら分かると思うんですけど、その切り替えが本当に難しいんですよね。本当はずっとネジを外していたいんですけど(笑)。
――その切り替えができること自体すごいですよ。ネジを外す切り替えなんて聞いたことないです(笑)
多分、みんな意識的にやってないだけなんじゃないですかね。
――バンドでいうと、ステージではすごく強烈だけど、降りたらすごく謙虚、みたいな切り替えですよね
そうです。特にライブのときはそうですね。歌ってる人なら分かると思うんですけど、自分が何を喋って、何を歌っていたか、あまり覚えてないことが多いんですよ。
――3年経ってもそうなんですか?
ずっとです。むしろ、いいパフォーマンスができたときほど記憶がないですね。そこまでぶっ飛べる素質はあるんでしょうね。でも、その一方で真人間みたいなこともしなきゃいけない。それが結構大変です。というか、そもそも飽き性で、めんどくさがりなんですよ。
――活動を始めたきっかけや転機について教えていただきたいです
活動を始めたきっかけは、もともとYAMAHAの「Syncroom」を長いこと使っていて、歌を歌ったり、ピアノを弾いたりするのを、人に聴かせるわけでもなく、仲間内で楽しむために使用していました。その流れで、仲間たちから「VRChatっていうものがあるらしいよ」と教えてもらったのが、4年ちょっと前くらいでした。それからVRChatを普通の一般ユーザーとして始めて、ワールドを探検したり、音楽イベントを見に行ったりしていました。それが大体1年くらい続いたんです。でも、あるときVRChatで知り合った人とトラブルになっちゃって。
――VRChatで知り合った人とですか?
そうです。それでVRChatを2〜3か月くらいやらなくなりました。インターネットって時間の流れが早いので、それくらい離れるともう「いない人」みたいな扱いになっちゃうんですよね。
――目まぐるしい世界ですからね
本当にそうです。さっき話した通り、すごく目まぐるしい世界なんです。そんな中で、VRChatで知り合った友達が「君は歌ったほうがいいよ」と言ってくれたんです。「君が歌ってるところを見てきたけど、君は歌ったほうがいい人だよ」って。
でも当時、私が知っているVTuberさんって、自分と同じようにインターネットコンテンツが好きな人ならみんな知っているくらいの、有名な方々や著名な方々くらいだったんです。
それに、さっきも言いましたけど、毎日「何が面白いかな」と考えながら発信し続けるのって、やっぱり大変なことだと分かっていたので、「いや、ちょっと厳しいんじゃないの?」って、1か月くらいごね続けました(笑)。
――その期間もずっと説得するってすごい執念ですね
そうなんです。その人はSyncroomで一緒に遊んだり、セッションしてくれたり、くだらないゲームを一緒にやったりする相手だったんですけど、会うたびに言ってくれたんですよ。通話越しですけど、本当に毎回言ってくれて。それで、「じゃあちょっと調べてみるか」と思って、準備を始めました。VTuberのことを調べたり、切り抜きや動画を見たりしたのがきっかけですね。
――実際に調べて「やる」と決めた、その決め手は何だったんですか?
調べる前にはもう割と走り始めていました(笑)。「やる」と思ったら走り始めるタイプなんです。どういうふうにやっていきたいか、どういう歌を歌いたいかを考えたのは、「やる」と決めた後でした。
聴きに来てくれる人たちの生活のそばにある音楽ができたらいいな
――なるほど。音楽について先に深掘りしたいんですが、何を聴いて育ってきたんですか?
親がすごく音楽好きなんですよ。だから、物心ついた頃には車の中で当たり前に音楽が流れていました。旅行に行くたびに、父がカラオケ好きなので家族でカラオケに行ったりもしていました。
小さい頃は、テレビで流れているヒットチューンと、父や母が好きな歌謡曲寄りの曲を車で聴いていましたね。父が長時間車を運転するのが好きな人だったので、どこに行くにも車だったんです。3時間くらいかけて旅行に行く道中も、ずっと音楽を聴いていました。
――ご両親が何を好きだったとか覚えていますか?
中島みゆきさんですね。あと父が毎回歌うのは、「壊れかけのRadio」でした。
――その流れで、年を重ねるごとに自然と自分でも音楽を聴くようになった感じですか?
そうですね。配信でも話しているんですけど、私には兄弟がいて、その兄弟と一緒に聴きたいリストみたいなものを作っていました。
レンタルショップに行く時代だったので、一緒に「あれだ、これだ」とCDを選んで、焼いて聴いていました。家族内では普通にヒットチャートを聴くことが多かったですね。
――最初に買ったCDって何ですか?
aikoさんの「えりあし」です。まだ本当に子どもだった頃に、お金を握りしめてレンタルショップのレンタル落ちコーナーを見ていたんです。そこで「何かいいのないかな」と探していたら、「このジャケット、すごく素敵だな」と思って買ったのが、aikoさんの「えりあし」だったんです。
――aikoさんの存在は知らずにですか?
知らなかったんです。「なんか良さそう」と思って買ったら、とんでもない当たりだった、みたいな。
――その流れで、いろいろなアーティストを聴いてきたと思うんですけど、自分の中で影響を受けたアーティストや楽曲はありますか?
椎名林檎さんですね。大好きなんです。ずっと、ずっと好きですね。
――出会いはいつ頃ですか?
学生のときです。同じクラスの子が、なぜか東京事変の「大人 (アダルト)」というアルバムを貸してくれたんですよ。そしたらもう世界が壊れましたね。椎名林檎さんは本当にずっとアルバムを買っていますし、大人になってからはライブはほとんど行っているんじゃないかなと思います。
――ちなみに、椎名林檎さんから今の活動においてどういう影響を受けていますか?
よく配信でも言うんですけど、「音楽はお守りみたいなものだ」という話をしていて。林檎さんが「女の子たちの人生のBGMになりたい」みたいなことをインタビューで言われていたんです。
私も、聴きに来てくれる人たちの生活のそばにある音楽ができたらいいなと思っているので、そういう心の置き方や、どう活動していくかという精神の部分に本当に影響を受けています。ちょっとした人生のいろんな場面で思い出して聴いてもらえると嬉しいな、というところですね。
――なるほど
林檎さんって、浮世離れしていそうな曲を書くんですけど、歌詞をよく見てみると生活のことを書いてることが多いんですよね。音楽はバチバチでゴリゴリなのに、歌詞を紐解いていくと、自分の生活のことや、生きている中で受け取っているであろうことを書いてるんです。私も、歌を歌う者の末席に名を連ねる者として、そういうものを届けられたらいいなと思っているので、すごく影響を受けています。
――音楽をやるうえでのこだわりはありますか? 「これは絶対外せない」とか、「これはやらない」みたいな側面があれば
こだわりというか、自分が嫌だなとか、嫌いだなと思ったものはやらないです。というか、嫌いだなと意識することはあまりないんですけど、基本的に好きだと思わないことは音楽ではやらないですね。
――それはジャンル的な話ですか?それともメッセージ性?
全体的に直感です。曲をお願いする方もそうですし、作詞もそうですし、歌う曲もそうです。多分、自分の好きなことしかやらないぞ、というこだわりがあります。
――「流行り」よりも自分の直感を優先する感じですか?
そうですね。でも流行りに乗りたいウキウキのあくびもいるんです(笑)。流行っているものの中にも、もちろん好きなものはあるので、「好きだなと思ったらやる」というのがこだわりですね。
――その中で、自分のオリジナリティはどこにあると思いますか?
最近は、作詞かなと思います。今も絶賛制作中なんですけど、去年EPを出したときに、5曲中3曲は作詞に携わらせてもらったりしていて。
人に聴いてもらっても、「あくび語録めっちゃ出るよね」と言われます。「ここでこんな歌詞出てこないよ」って。
――それはわかる気がします
「歌ったほうがいいよ」と言ってくれた方からも、すごく笑いながら言われます。去年出した「ワンダーラスター」という曲があって、「酸いも甘いも喰い放題。あぐんであげないんだから」みたいな歌詞を書いていて。
日常で使う単語とか、自分のノリやポリシーみたいなものを、めちゃくちゃ歌詞に書いてしまうんです。そこがオリジナリティかなと思います。
最近もちょうどレコーディングが終わった歌詞があるんですけど、めちゃくちゃ変なことを言ってますね。「あんまり歌詞で言わないだろう」みたいなことを言っている自覚があるので、そこがオリジナリティなのかなと思います。
――短いワードで印象づけるというか、パッと目に入る、記憶に残る言葉がちょこちょこあるイメージです
そうかもしれないですね。それこそネジを外して歌詞を書いているので、本当に脊髄でパーンと出てきた言葉がいい感じにハマるときは、なるべく採用するようにしています。それが得意です。まさに「脊髄作詞」です。
――「脊髄作詞」、文字面がめちゃくちゃ怖いですね
文字面はめちゃくちゃ怖いです(笑)。