Interview

SmiNICOが語る、VTuberでもVシンガーでもない現在地

SmiNICOが語る、VTuberでもVシンガーでもない現在地

バーチャルでできないことを、実写なら実現できる。そう考えた時に、表現の幅を広げる選択肢として自然だったんだと思います

――最初に公の場へ実写で出たのはいつ頃なんですか?

たぶんライブですね。「このライブは実写で出演します」と告知して出たのが最初だったと思います。時期で言うと2〜3年前くらいかな。イベント名までは覚えていないんですけど、おそらくエンタスだったと思います。

――実際に顔を出して活動するようになって、反響はどうでしたか?

良い反応も悪い反応もありましたね。悪い反応で言うと、「なんでVTuberなのに顔を出すの?」「だったら最初から顔出しでいいじゃないか」みたいな意見です。僕は単純に、「出せる姿は多い方がいいだろう」と思っていました。使える表現手段が増えるわけですし。ただ、そこは価値観の違いなので、わかり合えない部分もあると思います。

――実写活動ならではのメリットはありましたか?

ありますよ。ライブの後にファンの人たちが「お疲れさまでした」ってタバコをくれるんです(笑)。

――なるほど(笑)

いや、本当にありがたいんですよ。だってどうせ自分で買うものなので、感覚としては現金をもらっているのと同じですから(笑)。

――実写で活動するようになって、他に感じたメリットはありましたか?

今はまた状況が違うかもしれないですけど、当時は個人VTuberとして活動することの限界みたいなものを感じていたんです。

――限界、ですか

特に経済的な部分ですね。みんながみんな潤沢な資金を持っているわけじゃないですし、例えばフルトラッキングのスタジオを毎回借りられるかと言われたら、現実的には難しい。そういう壁はありました。もちろん上半身だけのトラッキングを否定するつもりは全くないんですけど、やっぱりフルトラッキングの方が表現できることは多いじゃないですか。動きも含めて、より理想的なバーチャル表現ができる。でも当時の自分には、そこへ継続的に投資できるだけの環境がなかったんです。だから「このままだと表現の進化が止まってしまうな」という感覚がありました。それも実写へ踏み出した理由の一つですね。バーチャルでできないことを、実写なら実現できる。そう考えた時に、表現の幅を広げる選択肢として自然だったんだと思います。

――少し音楽の話に戻りたいんですが、SmiNICOさんに大きな影響を与えたアーティストや楽曲ってありますか? デビュー前でも後でも構わないので

圧倒的に島爺さんと腹話さんですね。この二人は、今の自分の歌唱スタイルにかなり影響していると思います。島爺さんはやっぱりあのパワフルな歌い方。あの力強さにはずっと憧れています。腹話さんの場合は、歌唱力そのものというより、歌を作品として完成させる力がすごいと思っていて。自分が上手いと思われることよりも、作品全体を良くすることを優先できる人なんです。言い方を変えると、自分が100点と評価されるより、作品を200点にする人。そこが本当にすごい。

――なるほど

だから歌唱面では島爺さん、作品づくりに対する姿勢という意味では腹話さん。その二人からはかなり影響を受けていると思います。

――ラップに関してはどうでしょう。ターニングポイントになったアーティストはいますか?

ラップをちゃんと聴こうと思って最初に聴いたのは唾奇さんですね。「こんなにラフな言葉を使ってもいいんだ」とか、「話し言葉をそのままラップにしても成立するんだ」とか。そういう感覚は唾奇さんから学んだ部分が大きいと思います。あと、リリックだけじゃなくて、唾奇さんのラップって聴いていて本当に気持ちがいいんですよね。スキルフルなんですけど、それを感じさせない自然さがあるというか。よく「意外だった」と言われるんですけど、ゴリゴリ系のラップってあんまり聴かないんですよ。日常に近い言葉遊びが好きというか、肩肘張らないというか、普段の会話の延長線上にあるような表現。だから普段僕のリリックをちゃんと読んでくれている人なら、そこまで意外ではないかもしれないです。

――たしかに日常的なテーマや言葉使いが多いですよね

そうなんですよ。よく聴くと、僕のラップってポケモンの話ばっかりしてますからね(笑)。

――音楽面に関しては、モンスターズメイトの影響も大きいですか?

もちろんです。大きすぎますね。そもそも活動歴も長いですし、本当に大先輩なので。当時、バーチャルで音楽をメインに活動している人って本当に少なかったんですよ。その中でモンスターズメイトは、ある意味先頭を走っていた存在だったと思います。だから活動の参考にもしていましたし、すごく見ていました。

――具体的に影響を受けた部分は?

コーサカさんのラップですね。あの人のリズムキープって、聴けば聴くほど独特なんですよ。「その文字数で、そこに収まるの?」みたいなことを自然にやる。あれがすごく面白くて、気づかないうちに参考にしている部分はあると思います。

「やりたいことだけでは続かない」という言葉が重くのしかかった感じでした

――少し話題を変えて、NEWTOWNについて聞かせてください。外から見ていると、NEWTOWNをきっかけに活動の幅が大きく広がった印象があります。実際参加してどうでしたか?

大変でしたね(笑)。僕、一応ほぼ毎日参加していたんですよ。しかも当時はアルバイトもしていたので、仕事が終わってからNEWTOWNに参加する生活でした。配信は深夜まで続くし、その後もみんなと話したり打ち合わせをしたりして。あの期間は本当に睡眠時間が平均2時間くらいだったと思います。

――かなりハードですね

ただ、参加するかどうかは最初すごく迷ったんですよ。そもそも自分はストリーマーではないですし。誘われた時も「どうしようかな」と思っていました。

――それでも参加を決めた理由は?

ちょうど考え方が変わり始めていた時期だったんです。それまでは「自分の好きな音楽だけやっていればいい」と思っていた部分もあったんですけど、それだけだと誰にも見てもらえないまま終わる可能性もあるなと。見てもらえなければゼロと同じだな、と思ったんです。ある意味、自分のプライドを捨てたタイミングだったのかもしれません。「やりたいことだけでは続かない」という言葉が重くのしかかった感じでした。

――活動に対する考え方も、その時々で変化しているんですね

それはかなりあります。もちろんこだわりはありますし、歌やラップに対する自信やプライドもある。でも、トレンドや流行りって常に変わっていくじゃないですか。だから自分のやりたいことだけを貫けばいいとも思っていなくて。そこに順応していくことも必要だと思っています。

――クリエイターとして現実的な考え方ですね

正直、やりたいことだけやって食べていけるほど甘い世界じゃないと思っています。もともとは趣味で始めた活動ですけど、お金をいただけるようになってからは数字も意識するようになりました。やっぱりそこは切り離せないです。ストリーマーか、ミュージシャンか。

――最近はストリーマーとしての存在感も増していますが、音楽とのバランスはどう考えているんですか?

それは今でも変わらないですね。仮に配信でめちゃくちゃ伸びたとしても、自分は音楽をメインでやりたいと思っています。そこははっきりしています。

――でもNEWTOWNを見ていると、ストリーマーとしても向いてるなと思っていました

よく言われます(笑)。喋ればそこそこ楽しませることができるとは思うんですよ。実際、NEWTOWNが終わった後も、「RIONECTIONの中で一番良かった」と言ってくれる人もいましたし。本当にありがたいことなんですけど。

――それでも音楽なんですね

そうですね。配信が嫌いなわけではないんです。ただ、自分が一番やりたいのはやっぱり音楽なんですよ。それに、長く応援してくれている人たちへのリスペクトもあります。

――というと?

僕自身、何年も同じ活動者を応援し続けることってできないタイプなんです。だからこそ、何年も変わらず応援してくれている人たちには本当に感謝しているし、その人たちが好きになってくれた音楽は大事にしたい。だから配信でどれだけ注目されても、自分の軸が音楽から離れることはないと思います。

――何年も応援し続けてくれる人たちへのリスペクトが強いんですね

僕自身は、どれだけ好きでも同じ活動者を何年も追い続けることってなかなかできないんです。飽きてしまうというか。だから、それをずっと続けられる人たちは本当にすごいと思っています。長く応援してくれる人たちがいなければ続けられていないですし、お金も回ってこない。そのお金が次の制作にも繋がっていくわけじゃないですか。だから、そこへのリスペクトは絶対になくしてはいけないと思っています。

――今の活動におけるこだわりや、自分の中にある意識を言葉にするとしたら何ですか?

僕はあまり自分のことをVTuberとは言わないんです。始まりはもちろんVTuberなんですけど、活動の形がいろいろ変わってきて、今はVシンガーとも名乗っていません。以前はプロフィールに「Vシンガー」と書いていたんですけど、それも消しました。

――なぜ消したのでしょう

実写の活動もするようになったからですね。自分がVシンガーと名乗ることで、本当にバーチャル一本で活動しているVシンガーに申し訳ない気持ちがあったんです。もちろん、バーチャルでも実写でもライブはやります。ただ、今の自分をひとつの肩書きに収めるのは少し違うのかなと思っています。

――肩書きよりも、できることを広げていく感覚なんですね

そうですね。自分で言うのも変ですけど、やっぱりハングリー精神はあると思います。やりたくないことはやらないですけど、興味を持ったことにはちゃんと食らいついていきたい。どこかヤンキーなんですよね(笑)。もちろん、いろんな活動の形に対して偏見があるわけではないです。ただ、自分としては、出られる場所には全部出たいんです。例えば「VTuber用のスクリーンがないから出演できません」と言われるのも嫌なんです。だったら実写でも出られるようにしておきたい。そういう意味でも、バーチャルと実写の両方をやっているところはあります。

――他に活動を続けるうえで大事にしていることはありますか?

ずっと考えているのは、「裏で頑張れないやつが何を頑張れるんだ」ということです。これは歌詞にしたこともあるんですけど。例えば、最短ルートで伸びたいと思う人っているじゃないですか。もちろん効率は大事なんですけど、活動に直接繋がらないように見えることを面倒くさがる人もいる。でも僕は、人と人との関係や、周りの人とのコミュニケーションって絶対に無駄じゃないと思っています。いろんな人と関わって、何かしらの繋がりを持っておくことは本当に大事だと思います。結局、人間は一人では生きていけないので。だからこそ僕はいろんな人と話すし、関わるようにしています。簡単なことではないですけど、すごく大事なことだなって。

――最後に、今後の目標や展望について聞かせてください。直近でもいいですし、もっと先の話でも

にじさんじです。

――即答ですね(笑)

いや、本当にそうなんですよ。でもリアルなところを言うと、自分の課題としてずっと思っているのは、自分を売るのが下手なんですよ。自分で言うのもあれなんですけど、自分ではかなりいろんな才能があると思っているんですよ。歌もできるし、ラップもできるし、ライブもできる。でも、自分をプロデュースする能力だけが本当にない。そこだけは壊滅的なんです。だから今の目標は、自分の見せ方をちゃんと定めること。何者として見てもらうのかを整理することかもしれません。

――かなり現実的な目標ですね

本当にそうなんですよ。活動一本で生活できるようになりたいです。そのために、自分の見せ方をもっと整理したいですし、その過程で音楽を捨てるつもりはないです。遠回りかもしれないですけど、結局そこが自分の軸なので。音楽で食べていくのは本当に難しいんですが、それでも、やっぱり自分は音楽をやりたいんですよ。

――最後に、ファンの皆さんへメッセージをお願いします

個人VTuberとして活動を始めて、気付けばもう7年目になりますけど、今でも「これだ」という答えを探し続けています。ただ、その中でもライブだったり、配信だったり、音楽だったり。何かしらの形で皆さんを楽しませることはできると思っています。長く応援してくれている方も、最近知ってくれた方も、ぜひこれからも見続けてもらえたら嬉しいです。