Interview

夕凪潮インタビュー|音楽を主軸に活動する理由 活動を通して広がった世界とこれから

夕凪潮インタビュー|音楽を主軸に活動する理由 活動を通して広がった世界とこれから

興味のあるものがたくさんあって、「あれもこれも」とやってきましたね

――まず、活動を始めたきっかけからお聞きしてもいいですか?

音楽が好きで、一次創作として音楽をやりたいという気持ちから活動を始めました。2021年当時、VTuberやVSingerのオリジナル楽曲には、キャラクターソングや記念日に発表するものという印象が強くありました。そうではなく、バーチャルな存在として、音楽そのものを活動の主軸に据えたいと考えたことが、この活動を始めたきっかけです。

――なぜ表現手段としてバーチャルを選んだのでしょう?

VTuber黎明期のころに、「これからは一億総バーチャルになるのではないか」と思っていました。なりたいものになれる手段があったら、みんな飛びつくんじゃないかと。表現したいものや、なりたいものに手が届く環境と、バーチャルでしかできないことがたくさんある点が魅力的に見えたんです。

――将来性を見据えて、戦略的にバーチャルを選んだんですね

そこまで戦略的ではなく、「いま一番面白いことをやりたい」という感覚でした。なりたい自分になりたい、という気持ちですね。

――活動を始める前から、バーチャルの音楽シーンはよく見ていましたか?

音楽だけでなく、VTuber四天王と呼ばれていた時代からずっと見ていました。個人勢も企業勢も大好きで、バーチャルのシーンをかなり追っていました。いまもVTuberが大好きです。

――かなりの古参なんですね。活動当初から、音楽一本でやっていくつもりでしたか?それとも、ほかのVTuberのようにさまざまなことへ挑戦したいというスタンスだったのでしょうか

配信もしたいと思っていました。話したり交流したりすることが好きなので、自分を好きで応援してくれる人たちが望むことをやりたいという気持ちがあります。興味のあるものがたくさんあって、「あれもこれも」とやってきましたね。

――ただ、活動の主軸はやはり音楽ですよね

そうですね。たとえば所属しているコミュニティのなかで、GTAサーバーなど配信を主軸に活動することもできると思います。ただ、そうした活動をするにしても、主軸が音楽であることはずらしたくありません。

――実際、配信活動と音楽のバランスは難しくないですか?

とても難しいです。自分がどう見られたいのかを考えながら、案件、ゲーム、雑談、歌枠のどれを配信するか決めていかなければならなくて。そこは課題ですが、歌の人として見てもらえているなら、とてもありがたいですね。

――バランスという意味では、ゲーム配信のような活動の方が、知名度を上げるきっかけになることが多い印象なんですよ。一方で、音楽で伸びたいという気持ちとのバランスに悩みそうだなって

そうなんですよね。配信を入口に知ってもらえることはありがたいですし、交流することも好きです。ただ、「配信をしながら音楽もやる」というより、「音楽を軸にしながら配信もする」という見え方は保ちたい。何をどれくらい配信するかによって印象も変わるので、常に考えている部分です。

――活動全般で大切にしていることはありますか?

「自分ではなく、夕凪潮として活動する」ということです。生身の自分と夕凪潮では、生い立ちなども違います。僕は僕として、ずっと夕凪潮でいるという感覚です。生身の自分と大きく乖離しているわけではありませんが、「自分だったらこう言うけれど、夕凪潮だったらこう言う」という細かな違いがあります。あくまで、僕と私は違うという感覚ですね。

自分で音楽を選んで聴くようになったのは、比較的遅かったと思います

――デビューから約5年を振り返って、活動の転機になった出来事はありますか?

kamome sanoさんに楽曲提供していただいたことは、自分のなかで大きな出来事でした。それまではアザミさんとひじりさんと一緒に最初のEPを作っていて、次に誰へ声をかけるかをひじりさんにも相談していました。好きなインターネットシーンのコンポーザーはたくさんいましたが、そのなかでも、kamome sanoさんにお願いしたかったんです。

受けてもらえないだろうと思いながらメールを送ったところ、お返事をいただけました。それによって、連絡を送ることや挑戦することには意義があり、最初から「難しいだろう」と諦めなくていいのだと感じました。その経験があったからこそ、その後もさまざまな方へ依頼できるようになりました。返事がなかったり断られたりしたとしても、気持ちを伝えること自体が自分にとって悪い結果にはならないと思えるようになったんです。

――最初から諦めていても何も始まらないってことですね。ライブやイベントで印象深い出来事はありますか?

昨年、所属コミュニティに加入したころから、配信やライブイベントへ出演する機会が増えました。ライブには、生身で出演する場合とバーチャルの姿で出演する場合があります。さらにバーチャルにもLive2Dと3Dがあり、それぞれまったく違う表現ができるのが面白いです。

――ちなみに初めてのイベント出演ってなんでしたか?

初めてライブイベントへ出演したのは、2022年に京都メトロで開催された「シュッとしとるやつ」でした。VRChat内にも京都メトロを再現し、現地とVRChatの両方からライブを見られるイベントです。それまで配信上にしか存在していなかった夕凪潮が、幕を一枚挟み、シルエットで出演しました。

実際に集まってくださった方々の声を直接聞けたことが、とても楽しかったです。見る側が音楽を浴びるのと同じように、出演者もお客さんの思いを浴びる感覚があると知りました。

――出演形態は、イベントに合わせて変えているのでしょうか

そうですね。VTuberのイベントであれば、その文脈に沿ってバーチャルの姿で出演します。クラブイベントからオファーをいただいた場合は、映像だけで出演するよりも、現地で直接声を届けたい。そのため、仮面を着けて、生身の肉体を借りる形で出演しています。現地の熱量を肌で感じたいという気持ちがあります。

――生身でのライブは緊張しそうですよね

歌詞はよく飛びます(笑)。バーチャルの出演とは違い、生身だとその場で直接届けている感覚がより強くなります。大変さはありますが、それ以上に、お客さんの反応や会場の空気を受け取れることが楽しいです。

――これまでいろんなジャンルの楽曲をリリースしていますが、音楽のルーツを教えていただけますか

幼いころは、コンサートホールへ行き、クラシックや演歌に触れていました。西洋のクラシックだけでなく、日本の能や狂言などの文化にも触れてきました。ただ、それらが現在の自分へどのような影響を与えているかは、自分でも分かりません。

自覚的に影響を受けたと思うのは、10代のころから聴き始めた邦ロックです。ASIAN KUNG-FU GENERATION、RADWIMPS、BUMP OF CHICKEN、Galileo Galilei、相対性理論、パスピエ、くるりなど、2010年代のロックや、いわゆるロキノン系と呼ばれていた音楽がルーツです。いまでも一番好きだと言える音楽ですね。

――周囲の人が聴いている音楽から影響を受けることもありましたか?

あります。友達が「いい」と言ったものは必ず一度聴くようにしています。聴いてみて「なるほどね」と思うだけのこともありますが、自分だけでは出会えない音楽へ触れるきっかけにはなっています。

大学時代に軽音楽のサークルへ入り、先輩や同期が聴いていたポピュラーミュージックから、さまざまなバンドを知りました。自分で音楽を選んで聴くようになったのは、比較的遅かったと思います。

活動を始めてからは、自分の声に合う音楽を探すようになりました

――最初に買ったCDは覚えていますか?

宇多田ヒカルさんの『First Love』が入っているアルバムだったと思います。「曲がたくさん入っているものがいい」と思って、シングルではなくアルバムを選びました(笑)。

――ロック以外に、EDMやインターネット発の音楽から受けた影響はありますか?

VOCALOIDは世代だったので、ニコニコ動画などで幅広く聴いていました。ただ、「インターネット出身のアーティスト」というジャンルを意識して聴いていたわけではないです。VTuberがカバーしていた曲から、少しずつ知っていったように思います。

ボカロ以外だと、tofubeatsさんをよく聴いていました。あとは、Daokoさんもすごく好きで、『LOW HIGH WHO?』で活動していた時期から見ていたことも、入口の一つだったと思います。『アイドルマスター』も好きで、楽曲提供をしている方の作品をたどって聴くこともありました。

それでも自分のなかの王道は、やはりオルタナティブロックですね。そのうえで、活動を始めてからは、自分の声に合う音楽を探すようになりました。好きな曲のクレジットからコンポーザーを知り、さらに深掘りしていくことが多いです。

――「オルタナティブ」という言葉はかなり広いですが、夕凪潮さんにとってはどのような感覚なのでしょう

ロックは細かくジャンルを言い切ると、詳しい人から「それは違う」と言われることもあるので難しいですね(笑)。自分のなかではオルタナティブが王道にありますが、それだけに限定したいわけではないです。さまざまな音楽を聴いたうえで、自分の声に合うものを探し、好きなコンポーザーをさらに深掘りしていく感覚です。

――オリジナル曲を作る際は、好きな曲のクレジットからコンポーザーを知り、依頼することが多いのでしょうか

そうですね。「このコンポーザーが好き」「リファレンスはこの人のこの楽曲」というところからお願いすることが多いです。

――アルバムやEPを作る際、最初に全体のテーマを決めてから制作に入りますか?

いろいろな曲が入った、ごった煮のEPが好きなんですよ。最初から最後まで一つの作品として聴けるコンセプチュアルな作品も、聴き手としては好きです。ただ、作り手として取り組むには、自分の知識や能力の限界も感じています。自分で曲を作れれば、よりコンセプチュアルなアルバムを構想できると思いますが、作曲ができない状態では「こういうものがいい」という想像の範囲を出ない気がするんです。

そのため、ファーストEPもセカンドEPも、まずコンポーザーへ依頼しました。『PAVEMENT』では、冒頭と最後を同じ方にお願いして、「こんにちは」で始まり「さようなら」で終わるというコンセプトを設けています。中間の3曲は、散歩、移動、建物といった大まかなイメージを決め、「この方なら『PAVEMENT』に合いそうだ」と考えながら作りました。いろいろな作り方があると思いますが、自分にできることをしているという感覚です。

――ファーストEPからセカンドEPまで、リリースの間隔が空いた理由を教えてください

ファーストEPに収録したシングルは、デビュー前から相談し、自己紹介になるものとして活動1年目に少しずつ作っていました。活動の最初に、夕凪潮の世界観を知ってもらうための作品です。

その後も、kamome sanoさんやyacaさんに楽曲提供していただき、シングルやMVを発表していました。ただ、それらを円盤にするなら、シングルではなくアルバムとして出したいという気持ちがありました。次にCDを作るならどのような作品にするか、明確な構想がなかったことが、4年間空いた理由の一つです。

――そういう意味では、1stEPは作りやすかった?

そうですね。ファーストEPは、まだリスナーがいない、一人きりの夕凪潮の世界でした。セカンドEPを出すなら、配信やリスナーのもくずくんとの交流、さまざまな活動者との交流を経たうえで、心境の変化が表れたものにしたいと考えていました。

夕凪潮の物語はまだまったく終わっていない。こんなところでは終われないという気持ちもありました

――構想が浮かんだきっかけというか、2ndが動き出した原動力はなんだったのでしょう?

もともと友人だった愁子さんが企業を離れて個人で活動することになりました。それまでは企業所属の方へ声をかけてよいのか迷っていましたが、個人になったのを機に、表でも交流するようになりました。誰かと一緒に歌うことは、一人きりだったファーストEPからの大きな変化を示せると思い、愁子さんとの楽曲を作れないかと考えたところから、セカンドEPの構想が始まりました。

さらに、以前所属していた『アイドルマスター』の同人サークルで知り合ったu2meさんと、愁子さんの3人で「くるりはいいよね」と話しながら、京都らしい要素や、くるりへのオマージュを入れた遊び心のある曲を作品の最初と最後に置くことが決まりました。

――なるほど。『ペイヴメント』についてどのような楽曲が並んでいるのか教えてほしいです

中間の曲については、以前から曲を書いてほしいと思っていたcat napさん、Tamaさんへ依頼しました。作品全体にオルタナティブな要素が強かったため、少し毛色の異なる曲も欲しいと考え、ukaihiさんにも声をかけ、『水みたいに』を作っていただきました。

一人きりで、誰とも交流がなかったファーストEPから、愁子さんのところへ遊びに行き、この世界を探検し、また自分の世界へ戻ってくる。そうしたセカンドEP『ペイヴメント』の流れを、u2meさんをはじめ、さまざまな方と話し合いながら決めていきました。

――今後も、何か新しい出来事や状況が生まれたときに、EPやアルバムの構想が生まれやすいのでしょうか

そうかもしれません。M3があるからCDを作るというより、「こういうことがしたい。では次のM3でやろう」という順番です。秋のM3と、その次の春のM3に出したいものも決まっています。アルバムを出したいと思い、タイミングを考えたら秋だった、という感覚で作り始めています。

――ほかのアーティストと一緒に歌うことについては、どう考えていますか?

ぜひやりたいです。繭糸さんのアルバム『ゆるみの哲学』では、空閑環さん、繭糸さん、僕の3人で歌った曲があります。来年春には、人と一緒に歌うEPを出すことも構想しています。

――これまでの活動についてお聞きしたいのですが、音楽活動をやめようと思ったことはありますか?

ファーストEPからセカンドEPまでの間には、個人的につらい時期がありました。シングルは出していましたが、「いま取り組んでいることが終わったら、活動をやめようかな」と思ったこともあります。

ただ、夕凪潮の物語はまだまったく終わっていない。こんなところでは終われないという気持ちもありました。

――活動をやめようと思った理由は何だったのでしょう?

かけてきた熱量や時間、「これくらい聴いてもらえる、見てもらえるのではないか」という期待に対して、返ってくるものが少ないと感じ、寂しさがありました。自分では、とても良いものを作っているという気持ちがあります。それに対する反応を見て、自分が見据えているものと、ほかの人から見た感覚に大きなずれがあるのかもしれない、自分は向いていないのかもしれないと思いました。

何がきっかけで聴いてもらえるようになるかは、本当に分かりません。『ペイヴメント』でも、cat napさんに作ってもらった曲が一番聴かれていて、嬉しさと驚きがありました。MVを出すたびに、「こちらのほうが受けるんだ」「こちらのほうがキャッチーだと思っていたけれど、意外と数字には表れないんだ」と感じることが多いです。

夕凪潮に求められているものや第一印象と、実際に楽曲を聴いたあとの印象には違いがあるのかもしれないです。いまは、自分が好きな方々へ、自分の好きなようにオファーを送りながらアルバムを作っているところなので、前向きに取り組めています。

――今後の目標を教えてください

バンド形式でライブをすることと、音楽ゲームに楽曲が収録されることが二大目標です。表で明確に話したのは最近ですが、活動を始めたころから持っていた目標です。

先日初めてワンマンイベントを開催しましたが、ワンマンライブはバンド形式でやりたいと思っています。そのためにも、もう少し規模を大きくしていきたいです。下北沢SHELTERのステージにも立ちたいですね。

――今後のアルバム制作について、話せる範囲で教えてください

来年2月の活動の周年に合わせてアルバムをリリースする予定で、ようやく楽曲数も増えてきました。石風呂さんや原口沙輔さんなど、自分が好きなコンポーザーの方々に曲を書いていただいています。

ライブですでに歌っている曲もあります。Momさんに楽曲を作っていただいたほか、Tomgggさんに曲を書いていただき、ヤギヌマカナさんに歌詞を書いていただくなど、さまざまな組み合わせが生まれています。自分自身も完成をとても楽しみにしています。