IORI MATSUNAGA the LAST LIVE『Last Moment』オフィシャルレポート

IORI MATSUNAGA the LAST LIVE『Last Moment』オフィシャルレポート</picture></div>

 2020年9月のデビュー以来、歌と配信を通じてファンと歩み続けてきた、無原唱レコード所属のバーチャルシンガー・松永依織。2026年9月をもって卒業する彼女が9月20日、SUPERNOVA KAWASAKIにて、ラストライブ『Last Moment』を開催した。

約6年間にわたる活動の集大成として行われた本公演では、これまで発表してきたオリジナル楽曲を全編生バンド編成で披露。活動初期の一曲から、最後のEP『Timeless Beats』に収録された楽曲まで、松永依織がアーティストとして刻んできた軌跡をたどる一夜となった。最後の瞬間まで全力で歌を届け、ファンとともに“松永依織”という存在を胸へ刻んだステージの模様をレポートする。

取材・文:森山ド・ロ

 

ラストライブという特別な一日だからこそ、開演を待つ会場には、期待や寂しさだけでは言い表せない緊張感が漂っていた。やがて暗転し、「“超”インフルエンサー☆」のイントロが鳴り響く。その空気を切り裂くように発せられたのは、「松永依織ラストライブ、いくぞ!」という力強い第一声だった。ステージを彩るカラフルなネオンの映像演出も、楽曲の持つポップさと艶やかさを際立たせていく。最後のステージがついに始まる。そんな実感とともにオーディエンスの声が一斉に上がり、張り詰めていた空気は瞬く間に熱狂へと変わっていった。

その高揚感をばっさりと断ち切るように、続く「大衆性ロマン」は落ち着いた歌い出しで幕を開ける。直前までの華やかな空気から一転、抑制を効かせた歌声で楽曲の世界へ引き込む展開は、鮮やかなメリハリがあってとにかくクール。勢いだけに頼らず、空気を自在に切り替えてみせる表現力で、序盤からステージを掌握していく。

3曲目には、ラストEP『Timeless Beats』に収録された「Beyond the Dawn」を披露。爽やかなロックサウンドが駆け抜けるなか、ステージには澄み渡る青空の映像が広がり、楽曲の持つ開放感をいっそう引き立てる。アッパーなバンドサウンドを軸としながらも、ポップで艶やかな「“超”インフルエンサー☆」、クールな緩急を見せた「大衆性ロマン」、爽快感あふれる「Beyond the Dawn」と、その表情は三者三様。それぞれに異なる色を持つロックナンバーを鮮やかに歌いこなし、松永依織はラストライブの幕開けから、アーティストとして培ってきた表現の幅を見せつけていく。

 

最初のMCでは、楽しみな気持ちと、最後を迎える寂しさ。その両方を抱えて今日このライブを見ているオーディエンスの心情に触れ、「私もそう」と素直な思いを明かした。そして、「一人ひとりの想いをすべて背負って、私は今日ここで歌います!」と力強く宣言する。

その言葉に続いて披露されたのは、デビュー曲「カクテルライツ」。ネオンに包まれた都会的な空気と軽やかなポップサウンドに合わせ、オーディエンスもゆるやかに身体を揺らす。続いて「Drive Me Smile」では爽やかなポップロックに弾むような掛け声が重なり、会場の一体感を高めていった。さらに「プリズムシェイク」へ進むと、サウンドはよりグルーヴィーに。左右に振られる無数のペンライトがフロアを彩り、心地よい熱気を生み出していた。

 


続くMCでは、松永依織がオーディエンスとのコール&レスポンスを繰り返し、会場の熱気をさらに上げていく。そんなにぎやかな空気から一転し、ここからはバラードが並ぶ。「永遠の場所」では、大きな満月が映し出されたステージで静かに歌い上げる。その姿には、思わず息をのむような神聖さが漂っていた。

続いて披露されたのは、ラストEP『Timeless Beats』に収録されたバラード「Amber Sky」。前向きなメッセージを持ちながらも、前へ進まなければならない現実と、手放しきれない夢との狭間を描いたある種の卒業ソングとも受け取れる一曲だ。夕焼けを思わせる映像演出のなか、包み込むような優しさと、芯の通った力強さを行き来しながら、その揺れ動く感情を丁寧に歌い上げていく。

ロックナンバーで見せるエネルギッシュな姿とは異なり、バラードでも揺るぎない存在感を放つ。その歌唱表現の奥深さをあらためて印象づける時間となった。2曲の余韻が残るなか、ステージはバンドセッションへと移っていった。

 


熱のこもったバンドセッションを経て、衣装チェンジを終えた松永依織が再びステージへ姿を現す。黒と赤を基調としたパンクな装いは、この先に待つ展開を予告するかのようだった。

ここからは「彼は誰時の走り方」「Blazing Out」「Crazy Rock Girl」「我儘コンフリクト」「Crossed Identity」と、盛り上がらないはずがないロックナンバーをメドレーで畳みかける。松永依織の持ち味が凝縮された楽曲を立て続けに味わえる、あまりにも贅沢な時間だった。メドレーならではのスピード感を保ちながら、一曲ごとの個性も鮮烈に刻まれていく。短く切り取られた構成でありながら、その密度はフルサイズにも引けを取らない。松永依織のロックアーティストとしての魅力を濃厚に詰め込んだ時間となった。

 

メドレーを駆け抜けた松永依織は、ステージを支えるバンドメンバーを一人ずつ紹介。「EP、たくさん聴いてきたよね?」「ちゃんと聴いてきたのか、チェックしたいと思います!」とオーディエンスを煽り、ラストEP『Timeless Beats』収録曲「Edge of Insanity」へ突入する。エッジの効いたバンドサウンドが爽快に鳴り響くなか、松永依織自身も実に気持ちよさそうに歌声を解き放っていった。

続いて、同じく『Timeless Beats』から「UNLOCKER」を披露。さまざまな要素が混ざり合うミクスチャーロックであると同時に、松永依織の高いポテンシャルとチャレンジ精神までもがミックスされたような一曲だ。この楽曲を生ライブで聴ける機会が今回限りであることが、あまりにも惜しい。さらに進化していく姿を、もっと見ていたかったと思わずにはいられなかった。

そこから間髪入れずに投下されたのは「ぐうたらいふ」。またしても毛色の異なるアッパーチューンで、会場の空気を鮮やかに塗り替えていく。鋭さと挑戦性を見せつけた直後に、親しみやすく弾けるような楽しさを届ける。その振り幅で、オーディエンスの情緒を心地よく揺さぶっていった。

 

「ここからもっと楽しんでいきましょう!」という呼びかけを残してステージが暗転。再び衣装をチェンジした松永が姿を現すと、「We are Travelers」が始まった。身体を揺らさずにはいられないグルーヴと、思わず声を張り上げたくなるソウルフルな高揚感を備えたロックナンバーだ。オーディエンスの歌声が会場いっぱいに重なり、フロア全体が大きなユニゾンに包まれていく。

続く「Parallel Echoes」では、オーディエンスが一斉に手拍子を響かせる。淡い青色の光が無数に散らばるような演出のなか、一つひとつの言葉を噛み締め、それぞれに込めた想いを手渡すように歌い続けた。激しさで押し切るのではなく、歌声と情景がゆっくりと重なっていく。そのシネマティックなステージを見つめるうちに、胸の内で幸福感が少しずつ膨らんでいった。

そして「Voyage of Us」では、スクリーンを埋め尽くす無数の星を背景に、再びしっとりとしたバラードを届ける。壮大な景色とは対照的な優しい歌声が、会場を静かに包み込んでいった。のちのMCで松永は、卒業を発表してからここまで「あっという間だった」と振り返る。その一瞬にも思える時間が、まるで走馬灯のように脳裏を駆け巡っていく――そんな不思議な感覚をもたらすひとときだった。

 

「まだやってない曲、あるよね!?」という松永の声を合図に、「Awaken Now」「フルスロットル!!!!!!」が続けて披露される。満を持して放たれた松永依織のロックアンセムに、会場の熱気はこの日一番の高まりを見せた。「Awaken Now」では、盛大な掛け声とコールが飛び交い、赤と白のペンライトがサビに合わせて上下に跳ねる。松永依織はこの曲について、「君の人生のいろんな瞬間に思い出して、ずっとずっと聴いてくれるとうれしいです」と語った。

続く「フルスロットル!!!!!!」は、まさに松永依織という存在をそのまま体現したような、代表曲と呼ぶにふさわしい一曲。オーディエンスが待ち望んでいた瞬間に、淡い七色の閃光がステージを駆け巡る。全力で突き進む激しさのなかに、どこか哀愁が入り交じるのも、この曲ならではの魅力だろう。松永も「私をどんなときでも支えてくれた曲」「私といおりすをつないでくれた大切な曲」と、その特別な存在を振り返った。

 

2曲を歌い終えた松永は、「松永依織の軌跡、楽曲は残り続けます。私の卒業後も、私の歌が誰かの支えとなり、明日を生きる力になれたらうれしいです」と、声を震わせながら語った。卒業をもって、すべてが終わってしまうわけではない。残された楽曲と活動の軌跡を通じて、“松永依織”という存在をこれからも人から人へ紡いでほしい。そこには、別れを悲しむだけではなく、その先へ歌をつないでいこうとする切なる願いが込められていた。

その言葉を受けて、本編最後に届けられたのは「残歌」。先ほどのMCで伝えた思いが、そのまま歌へと形を変えたようなバラードだ。歌と記憶が残り続け、聴く人が前へ進む力になってほしい。前向きな意志を宿しながらも、それは確実な未来ではなく、「そうあってほしい」と願うことしかできない。だからこそ、歌声には拭いきれない切なさもにじんでいた。演奏中は時が止まったかのような静けさが会場を包み、オーディエンス一人ひとりが松永の願いを受け止めるような、不思議な時間が流れていた。

 


鳴りやまないアンコールに応え、松永依織が再びステージへ。届けられたのは、じんが作詞・作曲を手がけ、ラストEP『Timeless Beats』の幕開けを飾ったリードトラック「NAMED」。ライブはいよいよ最終盤。しかし、楽曲が描き出したのは終演ではなく、新たな物語の始まりだ。神秘的な光が美しく飛び交う一方で、その景色からは晴天を思わせるようなすがすがしさがあふれていた。終わりではなく、ここから新たな一歩を踏み出す。その瞬間を祝福するような幸福感に会場が満たされ、胸がはち切れそうになる。

最後のMCでは、これまで重ねてきたライブを一つずつ思い返しながら、活動に携わったスタッフ、いおりす、そして家族へ感謝を伝えていく。そして「最後、一緒に歌ってください!」と呼びかけ、本当に最後の一曲「さよならじゃなくて、また明日」へ。

淡いアコースティックギターの音色が響くと、それまでの壮大な空気から一転し、会場は温かな親密さに包まれた。松永依織とオーディエンスがともに歌う光景には、彼女が6年間で育んできた愛情が凝縮されているようだった。大きな熱狂で別れを告げるのではなく、いつか再び会えることを願うように、ゆるやかに、そして静かに。松永依織のラストライブは、そのタイトル通り“さよなら”ではなく、“また明日”という言葉を残して幕を閉じた。

<セットリスト>1. “超”インフルエンサー☆2. 大衆性ロマン3. Beyond the Dawn4. カクテルライツ5. Drive Me Smile6. プリズムシェイク7. 永遠の場所8. Amber Sky9. 彼は誰時の走り方10. Blazing Out11. Crazy Rock Girl12. 我儘コンフリクト13. Crossed Identity14. Edge of Insanity15. UNLOCKER16. ぐうたらいふ17. We are Travelers18. Parallel Echoes19. Voyage of Us20. Awaken Now21. フルスロットル!!!!!!22. 残歌23. NAMED(Encore)24. さよならじゃなくて、また明日(Encore)